医師の地理的偏在の解消に向けて:NPO「全世代」私案

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【はじめに:本提案の目的】

【1】わが国においては、医療は国民が払う保険料と税金で大部分が賄われており、居住地域に関わらず、公平な医療を受けられるような仕組みを整えることが求められている。ところが、医療を担う医師の数は、地域によって大きな偏りがあるのが現実である(参考:本文末尾資料)。この医師の地理的偏在の解消は、将来にわたり良質な医療がだれにも持続的に提供されて行くために、きわめて重要な課題である。

【2】医師の地理的偏在の解消に向けては、これまでも各都道府県などを中心に、様々な取り組みがなされて来た。しかし、都道府県の枠を超え全国レベルでの効果的な問題解決の仕組みは未だ確立されていない。

【3】問題を放置すれば、とくに地方における地域医療は、危機的な状況に直面する。超高齢社会とも言われる2025年が10年以内に迫っている現在、医療界のみならず、国民的な議論を通し、この問題に本格的に取り組むべき時期に来ていることは明らかである。

【4】昨年設立されたNPO「全世代」(注1)では、医療分科会を中心に本問題の解決策を検討して来た。その結果、本問題に対する提案を取りまとめたので、ここに公表する。本提案の目的は「医師の地理的偏在」の解消に向け、都道府県の枠を超えた全国レベルでの、早期に実効性のある解決策を提示し、国民的合意形成に資することである。

【5】医師の地理的偏在に加えて、わが国には特定の診療科の医師が特に不足しているという、診療科偏在の問題がある。この問題については、現在日本専門医機構でも議論されており、今後さらに関係者の議論が必要な課題である。そこで今回、NPO「全世代」として、医師の地理的偏在解消に焦点を絞って、本提案を公表するものである。

【6】医師の地理的偏在解決のためには、医学部教育のありかた、奨学金のありかた、ITの活用、各地域における連携の更なる強化など、総合的な対策の実施が求められる。それらの解決案は本提案とは矛盾せず、互いに補完的な役割を果たすものである。

(注1)「全世代」http://zensedai.org「主権者として日本社会の未来を作るため一歩を踏み出そう」との志を共有する人達が、世代、男女、職業、居住地など様々な違いや利害を超え
て一堂に会し、これからの社会にとり重要と考える課題について、その解決に向けた具体的構想・提言を社会に発信するNPO。

 

【本提案の基本的考え方】

【1】そもそもわが国の医療は国民が払う保険料・税金でその大部分が賄われていること、また国公立の医学部教育はもとより私立大学の医学部教育にも多額の税金が投入されていること等を考えれば、医療は国民共有の財産として運営されていることは明らかである。したがって、医師には居住・移転および職業選択の自由が保障される一方で、公共の福祉、地域のニーズに貢献する社会的責務を果たすことが社会から期待されている。

【2】しかし、地理的な医師の偏在により、多くの地域において、保険料・税金を負担している住民のニーズに充分に応えられてはいない。深刻な医師不足地域の医療ニーズに対し、一部の医師だけにこの役割を任せきりにするのではなく、若手医師のみならず全ての世代の医師が可能な範囲で協力して行くことが求められている。そのために、無理なく、しかも実行可能な偏在解消への制度的施策が必要とされている。

【3】現在、医師は医師免許取得後、特に条件なしに保険医として登録され、どこでも保険診療に従事できる。今回我々が提案する施策は、この保険医登録の仕組みを変えて、保険医登録の条件、あるいは、「保険医療機関」の責任者になるための条件として、一定期間医師不足地域で勤務することを求めるものである。本提案を実現するためには、然るべき法律改正が必要と思われる。なお、「保険医療機関」の責任者の定義については、別途定めることとする。

【4】本提案の実現のためには、若い医師を含め関係者の意向を尊重しながら行うこと、また予め、医療ニーズの高い地域、病院はどこかを含め、本制度の仕組みについて関係者の幅広い理解を得たうえで、制度を開始することが重要である。

【5】なお、本提案は基本的には2つのステージに分かれている。①まず全国レベルの情報を集約し、都道府県地域医療構想圏(二次医療圏)レベルでの医師不足地域を確定し、②その後、どの病院に勤務してもらうか、いかなる支援体制を構築するかなど、具体的な取組については、各医師不足地域が責任をもって行うとする。(参照:具体的方法【6】)

 

【具体的方法】

【1】保険医登録の条件、あるいは、「保険医療機関」の責任者になるための条件として、専門研修(*)を終えた後の一定の時期に、深刻な「医師不足地域」において一定期間勤務することを求めることとする。(*初期研修後の専門研修の期間も含めるという考えもあり得る)

【2】「医師不足地域」については、国をはじめ様々な検証可能な客観的なデータベースを構築し、都道府県地域医療構想圏(二次医療圏)ごとの医師数、医療ニーズなどをもとに全医療圏をA、B、C(Cが最も深刻)の3種(**)に区分する。都道府県はこれに加え、島嶼や過疎地域に限定した特殊地域Sを設ける。(**医師の不足地域と充足地域の2種に区分することもあり得る)

【3】その上で、保険医登録を全国共通に一本化し、保険医登録証を一種登録証と二種登録証に区分する。

【4】一種登録証については医師免許取得時に全員に授与する。

【5】二種登録証については、臨床研修終了後の勤務実績によって授与する。勤務実績として、次のような設定を考える。
地域医療構想圏A新規の保険医登録の実績にならない地域医療構想圏B2年の勤務実績により二種登録証を授与地域医療構想圏C1年の勤務実績により二種登録証を授与特殊地域(島嶼等)S6ヶ月の勤務実績により二種登録証を授与(なお、本提案は地理的偏在の解消に焦点を絞って提案するものであるが、仮に診療科偏在の解消にも一定程度貢献するのであれば、診療科についても、それぞれの医師数を基にいくつかのレベル(例:甲乙丙;丙が最も深刻)に分け、例えば、丙に属する診療科を選択した医師に限り、上記、二種免許証を取るために必要な勤務期間が短縮されるという考え方もあり得る。)

【6】当該「医師不足地域」内で具体的にどの医療機関に勤務するかは、当該医師個人の考えを充分尊重し決めるようにする。赴任する医師の要望を最適化するために、マッチング制度などの導入も検討の対象となる。勤務する医療機関については複数の病院がネットワークを作ることも考えられる。また受け入れ側地域あるいは受け入れ医療機関には、赴任する医師のキャリアに資するような体制(例えば地域医療教育センター)を整えることも望まれる。こうした地域での取組については、都道府県地域医療構想圏(二次医療圏)毎の地域医療構想調整会議が都道府県の地域医療協議会との連携のもと責任をもって行う。

【7】一種登録証、二種登録証についての効力・定義については以下の2つの選択肢があり得る。いずれを採用するかについては適切な方法で国民や医療関係者の意見を聞き、コンセンサスを得ることが必要である。

  1. 選択肢A:一種登録証のままでも、通常の保険診療を継続的に行うことができる。ただし二種登録証を保持しない者は、「保険医療機関」の責任者にはなれない。
  2. 選択肢B:二種登録証を保持しない者が、「保険医療機関」の責任者にはなれない点では、選択肢Aと同じである。違いは、一種登録証のままで保険診療をできる期間を例えば10年と規定する。従って、一種登録証の更新が必要となってくる。どちらの選択肢を採用するかに関わらず、硬直化したものにならないよう、赴任する医師の要望をよく受け入れ、弾力的な運用をも可能とするものであることが重要である。

【8】いずれの選択肢であっても、現在保険医登録証を保持するものには経過措置として二種登録証を交付する。この制度を開始するにあたっては、充分な事前のアナウンスを行い、周到な準備期間を設けることが必須である。

【9】医師不足地域への勤務時期は、基本的には専門研修(*)後の一定の期間とするが、実際の運営は各個人の事情を尊重し弾力的に行う(*初期研修後という考えもあり得る)。運営は自由度のある柔軟なものとする。

【10】医師の支援を受ける地域の関係者は、医療事故への対処を含み、当該医師が“孤軍奮闘”にならないよう十分な支援を行い、赴任する医師が進んで赴任して来ることのできるような受け入れ体制を準備することが強く求められる。【11】当然のことだが、この期間が終了すればその後の勤務地、勤務医療機関は各自の自由で選択できる。

【おわりに:本提案が実現された場合、期待される効果】

本提案が実現された場合には、

  1. 医師の地理的偏在が短期間に改善される
  2. 医師が第一線の現場を経験することにより、視野を広げることができる
  3. 若手医師が参加することにより、地域医療が活性化する
  4. 若手医師の教育体制を整えることにより、指導医の質の向上にもつながる
  5. 一部の医師だけに地域医療の負担を負わせる状態が改善されるなどが期待される。

NPO「全世代」 医療分科会 メンバー

赤星 昴己
飯塚 陽子
宇井 睦人
内田 健夫
遠藤 秀彦
大宮杜喜子
尾身 茂
小野崎耕平
亀田 俊忠
桐野 高明
河内山哲朗
堺 常雄
坂元 昇
塩谷 泰一
杉村 正樹
鈴木恵美里
辻 哲夫
西澤 寛俊
中村 桂子
長沢けい子
深津 紘
福島 尚文
邉見 公雄
前野 一雄
松田 晋哉
渡邉 俊介 ・・・ (あいうえお順)